【第40回】ドル円はどこまで上がる?今知るべき相場の行方

解説 内田稔教授
1993年、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)入行後、一貫して市場部門に在籍。 2011年より外国為替のチーフアナリストとしてハウスビュー策定を統括。金融専門誌J-Moneyの東京外国為替市場調査アナリスト個人ランキングにて 2013年から2021年まで9年連続第1位。2022年4月より高千穂大学教員に転職。株式会社FDAlcoにて為替アナリストとしての実務も継続中。

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1. ドル円相場の最近の動きと、その背景にある主な要因は何ですか?
過去1ヶ月間で、ドル円は中東の地政学リスクに伴う原油価格上昇により一時148円1銭まで上昇しましたが、その後、米国の利下げ観測やトランプ大統領の発言でドル安に転じ、143円を割り込みました。しかし、米国の雇用統計が予想ほど悪くなかったことから7月の利下げ期待が後退し、再びドルが上昇しました。今週は147円台まで上昇し、その後146円を割ったものの、再び147円近辺で堅調な動きを見せています。

このドル円上昇の背景としては、以下の要因が考えられます。

ユーロドルの反落: ドル指数に最も影響を与えるユーロドルが、過熱感からの調整でユーロ安・ドル高に転じたことが、為替市場全体のドル高に繋がりました。
円ロングの取り崩し: 過去最大規模に膨らんでいた円ロング(円高を見込んだ買いポジション)が、ドル円の底堅さやクロス円の円安進行を受け、利益確定や損切りによって縮小している可能性が高いです。これは円安圧力となります。
米国債入札の好調: 10年債と30年債の米国債入札が好調だったことは、米国財政への投資家の信頼回復を示唆し、ドルの信認回復に繋がりました。
2. 現在の円相場は全体的に見て強いですか、それとも弱いですか?その理由は何ですか?
現在の円は、幅広い通貨に対して依然として弱い状況です。年初からドル円は158円台で推移しているため円高のイメージがあるかもしれませんが、スイスフラン円は史上最高値、ユーロ円も170円を大きく超えるなど、ドル円以外のクロス円では軒並み円安が進んでいます。

この円安の背景には、主に以下の要因が挙げられます。

投機筋の円ロング縮小: 円高を期待して積み上がっていた投機筋の円ロングポジションが、足元の円安傾向を受けて縮小しており、これが円安圧力を強めています。ヘッジファンドや年金基金といった長期投資家も同様に円ロングを縮小する動きが見られます。
実質金利の低さ: 日本の実質金利(政策金利からインフレ率を差し引いたもの)が、他の主要国と比較して低く、さらにマイナス圏にあることが、円の魅力度を低下させ、円安に繋がっています。
3. 「海外の利下げイコール円高」という一般的な見方は、現在の市場では当てはまりますか?
現在の市場では、「海外の利下げイコール円高」という見方は必ずしも当てはまっていません。例えば、スイスやユーロは今年利下げを行っており、金利差だけを見れば円高に進むはずですが、実際にはスイスフラン円やユーロ円は上昇(円安)しています。これは、政策金利の差だけでなく、インフレ率を差し引いた長期実質金利の動きが為替相場に大きく影響しているためです。スイスの長期実質金利は年初から上昇しており、これがスイスフラン高・円安に寄与しています。

4. 為替相場において、政策金利よりも重要視すべき要素は何ですか?
為替相場、特に日々のマーケットに影響を与えるのは、政策金利ではなく長期実質金利(長期金利からインフレ率を差し引いたもの)の動向が重要です。政策金利は金融政策決定会合のタイミングでしか動きませんが、長期実質金利は常に変動し、投資家がその通貨を保有する上で実質的にどの程度の金利を得られるかを示すため、為替レートに直接的な影響を与えます。日本の長期実質金利が他国と比較して低い水準にあることが、円安の要因となっています。

5. 米国の「トリプル安」(株安、債券安、ドル安)のリスクは完全に払拭されましたか?
現状では、米国の株価(S&P 500やナスダック)が史上最高値を更新し、国債入札も好調、ドルも今週は盛り返しており、「トリプル安」のリスクはかなり鎮静化しているように見えます。しかし、完全に払拭されたわけではありません。特に、米国の減税法案成立を受けて、10年タームプレミアムが拡大する兆しも出ており、これは将来的な米国債の価格変動リスクに対する投資家の要求リターンが高まることを意味します。そのため、米国ドルや米国債に対する信認が本当に大丈夫なのか、もう少し慎重に見ておく必要があります。

6. 来週の為替相場の注目点は何ですか?
来週の為替相場の主な注目点は以下の通りです。

米国の経済指標: CPI(消費者物価指数)と小売売上高が発表されます。これらが予想よりも上振れした場合、利下げ観測が後退し、明確なドル高材料となる可能性があります。
フランス国債入札: 欧州も財政拡張に動いているため、フランス国債の入札動向も注目されます。
日本のCPI: 6月の日本のCPIが発表されます。
FRB高官発言: FOMC前のブラックアウト期間に入る前の週であるため、FRB高官の発言が多数予定されています。ただし、7月の利下げの可能性は極めて低いと見られています。
7. 来週のドル円相場の見通しはどうなっていますか?
来週のドル円相場は、ドルの持ち直しと円ロングの解消が続くことによって、底堅さを維持すると予想されています。直近高値の148円1銭を更新する場面があってもおかしくない状況です。

しかし、150円まで再接近するためには、今週のようなユーロ安による間接的なドル高ではなく、米国のCPIの上振れや小売売上高の好調など、明確なドル高材料が必要になると考えられます。短期的な目標は147円台、高くても6月下旬の直近高値更新までと見られています。

8. 来週、円高に警戒すべき点はありますか?
円高への警戒も必要です。特にスイスフラン円やユーロ円といった一部のクロス円では、短期的には過熱感が出ており、買われすぎの状態です。来週は参議院選挙前の3連休を控えているため、政治イベント前に積み上がったクロス円の利益確定売り(円買い)が一時的に発生し、それに釣られてドル円も145円方向へ反落する可能性も考えられます。基本的な見方は底堅いものの、クロス円主導の利益確定の動きには注意が必要です。

8 件のコメント

  • トランプがドル安にしたいのに、今はドル高になってます。いつドル安にするのか、よろしければ見込みを教えてください。

  • なんとなくイメージで話している人もいますが、しっかりデータに基づいていて信頼できます(3ページとか)。

  • 河村小百合先生の日銀の財務問題を憂いておられます金利を上げれば債務超過お金ジャブジャブで金利上げなければ債務超過

  • 河村小百合先生は日銀の財で既に本を出されてますし参議院の財政金融委員会て参考人招致されている日本財政の権威です

  • 知りたかったことを、分かりやすく解説いただきありがとうございます。

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