【第38回】金融政策の違いは円高を招くのか?

解説 内田稔教授
1993年、東京銀行(現・三菱UFJ銀行)入行後、一貫して市場部門に在籍。 2011年より外国為替のチーフアナリストとしてハウスビュー策定を統括。金融専門誌J-Moneyの東京外国為替市場調査アナリスト個人ランキングにて 2013年から2021年まで9年連続第1位。2022年4月より高千穂大学教員に転職。

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1. 最近のドル円相場の動きをどう評価していますか?
ここ最近、ドル円は全体的にドル安円高の動きを見せました。特に、イランとイスラエルの停戦合意による地政学リスクの緩和と原油価格の下落、FRB高官のハト派的な発言による7月利下げ観測の高まり、米国の消費者信頼感指数の悪化などがドル安要因として挙げられます。一時は148円台に上昇したものの、その後は144円台まで下落しました。ただし、ドル円のドル安円高は、主にドル安が主因であり、クロス円を見ると必ずしも円高とは言えない状況です。

2. 米国の金融政策はドル相場にどのような影響を与えていますか?
米国の金融政策、特にFRBの利下げ観測はドル相場に大きな影響を与えています。現在、市場では年内に2.6回の利下げが織り込まれており、これにより米国の金利が低下し、ドル安に作用しています。しかし、FRB内では7月利下げに否定的な意見も多く、パウエル議長も「まだ時間がある」との見方を示しています。今後の経済指標、特に雇用統計の結果が利下げの時期と幅を決定する上で重要になります。

3. 日本の金融政策は円相場にどのような影響を与えていますか?
日本の金融政策、特に日銀の利上げは円相場に影響を与えますが、本資料によると、金融政策の方向性の違いが直接的に為替レートを決定するわけではないと強調されています。例えば、スイスと日本では、スイスが利下げ、日銀が利上げと金利差が縮小する方向に動いているにもかかわらず、スイスフラン高円安が進んでいます。これは、単なる政策金利の差だけでは為替を説明できないことを示唆しています。日銀短観の悪化予想などから、日銀の追加利上げは難しいとの見方も出ており、むしろ円安要因になる可能性も指摘されています。

4. 金融政策の方向性の違いは本当に円高を招くのでしょうか?
必ずしもそうではありません。一般的に「年末に米国が利下げするからドル安円高になる」という見方が広まっていますが、スイスフラン円やユーロ円など、他のクロス円相場を見ると、海外の政策金利が低下しているにもかかわらず、自国通貨高円安が進んでいるケースが多く見られます。これは、金融政策の方向性の違いだけでは為替の動きを単純に説明できないことを示唆しています。

5. 為替相場を動かす真の要因は何だと考えられますか?
為替相場を動かす真の要因として、本資料では「実質金利の動き」が非常に重要であると指摘しています。特に、長期金利からインフレ率を差し引いた「長期実質金利」が重視されます。スイスと日本の事例では、政策金利の方向性が逆にもかかわらずスイスフラン高円安が進んだのは、スイスの長期実質金利が日本よりも大きく上昇したためと説明されています。

6. 今後のドル円相場を予測する上で注目すべきポイントは何ですか?
今後のドル円相場を予測する上で、以下の点が注目されます。

日米の金融政策: 物価、景気、特に米国の雇用状況が重要です。
長期実質金利の動き: 政策金利の予想、インフレ期待、財政政策と関連するタームプレミアムも考慮に入れる必要があります。
金利とドルの関係: 現在、米国では金利上昇がドル安に繋がる逆相関の動きが見られますが、これが株や債券市場の回復に伴い、本来の順相関に戻るかどうかが注目されます。
関税交渉: 米中合意や他の国々との交渉期限(7月9日)の結果が為替に影響を与える可能性があります。
地政学リスク: 中東情勢など、地政学的な緊張が原油価格や為替相場に与える影響に引き続き注意が必要です。
7. 来週発表される米国の雇用統計はドル円にどう影響すると予想されますか?
来週発表される米国の雇用統計は、ドル円相場に大きな影響を与える可能性があります。

予想よりも良い結果の場合: ドルが反発し、ドル円は146円台まで上昇する可能性があります。ただし、独立記念日の祝日を控えているため、一時的な上昇にとどまり、その後はポジション調整で反落する可能性もあります。
予想よりも悪い結果の場合: 7月の利下げ観測が強まり、ドルが売られ、ドル円は143円台まで下落する可能性があります。しかし、株式市場が利下げ前倒しを好感してリスク選好の円売り(クロス円の堅調な推移)が進むことで、ドル円のドル安円高は限定的になる可能性も指摘されています。
8. 現在の円相場の特徴として挙げられることは何ですか?
現在の円相場の特徴としては、ドル円がドル安円高に動いている一方で、クロス円を見ると、他の主要通貨に対して円安が進んでいる傾向が挙げられます。これは、ドル円の動きが主にドル安に起因しており、円自体が特に強いわけではないことを示唆しています。スイスフラン円が過去最高値を更新していることからも、この傾向が読み取れます。

8 件のコメント

  • 今回もありがとうございます。スイス円、ユーロ円の実例で政策と実際の為替の相関が大変よくわかりました。地政学リスクもいったん落ちついて、関税問題が再クローズアップされる今週、ドル円はどう動くのでしょうか?注視したいと思います。

  • 土曜の昼前に拝聴いたしました。
    金曜は、東京都区部のCPIが3.1%に下振れしたことで、JPY安に。東京都は潤沢な財政基盤により、他地方自治体ではとてもできない物価高騰を補填するための施策(今年4月からの高校授業料無償化や、7月検針分から水道基本料金が無料になるのが代表的か)を数々行っていて、国内の実情を正確に反映していないいわば不当に下振れている数値。これが材料にされてはたまらない。まさか、BOJもこの結果を鵜吞みにして利上げしないなんてことはないよな!
    よく、コストプッシュインフレの要素が大きいから利上げできないというBOJ総裁や委員、及び評論家の論調があるが、じゃあ聞きますが、他国(特に貿易収支の悪い国)でこの要素の有無を日本と比較して検討しているのですか?例えば、トルコなんて、何も売るものがない、慢性的貿易赤字国。エルドアンがイスラム法理(金利は悪)を盾にあれだけ利上げに抵抗(TCMB総裁3人をクビにした)のに、結局は大幅利上げしたじゃないですか。コストプッシュインフレがトルコになかったとは言わせません。ブレグジットのBOEだって然り。ECBだって。
    発言力のある人はもっと他国を研究して、日本の進むべき正しい政策金利施策に反映させてもらいたい。

  • ありがとうございます。先生の動画を拝見するたびに大学の授業を受けているようでとてもありがたく感じています。私の思考もアップしております。
    4月からのユーロ上昇は2024年の175円を目指しているかもしれませんね。実質金利や日本経済の実情を投資家は見透かしているように感じます。

  • 22:47 順相関に戻るかもについてですが、日本は利上げ出来ない、インフレも高止まり、実質金利はマイナスのまま、米国はインフレが落ち着いて利下げが進めば実質金利は下がるので順相関でドル円は下落、140割れの可能性もあるでしょうか

  • 政策金利と為替の変化のグラフはなかなか面白いですね。
    これを見ると、デフレだった日本が今より円高だったのも納得ですね。

  • クロス円は実質金利以上に上がってる気がするんですけど、そのほかの要因って、何かあるんでしょうか?

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